2024.05.10

テクノロジー

歯科医院におけるデジタル化、DX化の現状と課題とは|高松 雄一郎先生インタビュー(前編)

DX化というものが声高に叫ばれるような昨今。歯科業界ももちろん例外ではなく、様々な場面でDX化が進んでいく中で、データの取り扱い方と管理、デジタル化に伴うデータ管理の複雑化、異なるメーカーのデバイスやシステムを統合することの困難さなど、今まで考えることのなかった課題が顕在化してきています。

そんな中で歯科医院経営を健全に、かつ効率的に行っていく上でなくてはならないDXについて、どう考え、どう向き合っていくべきなのでしょうか。

本記事では、歯科医院におけるデジタル化とDX化の現状と課題について、日本臨床歯科CAD CAM学会 北海道支部長でもある北海道石狩市高松歯科医院の高松雄一郎院長にお話を伺いました。

目次

  1. 進んだDX、顕在化する課題
  2. データはまとめたい、ただ簡単ではない現実
  3. 壁になっているのはメーカー同士の思惑?
  4. DXが進んでも、統合できないことで生まれるヒューマンエラー

1. 進んだDX、顕在化する課題のジレンマ

– 今の歯科医院様における様々なデバイスのデータの取り扱いに関してどのようにされているかをお伺いしたいと思っています。

まずは、現状、歯科医院様はどういうデータの取り扱いをされてるのか教えていただければと思います。データと言われたときに管理しなくてはいけないデータはどれぐらいの種類があるものなのでしょうか。

高松 雄一郎(以下:高松):そうですね。カルテから始まるのであれば、診療にまつわる患者情報のほとんどがデータ化されているのでそのデータ、あとはいわゆるサブカルテのようなものがあるとしたらそれにまつわるような何か、パーソナリティデータもそうですよね。そのほかにレントゲンなどのデータ。やはりこれだけざっと言ってもたくさんあるわけですから、みなさんデータデータというわけですよね。

かつそのデータの中にいろんなメーカーさんが介在しているというところに課題があるのかなと思います。

– 実際に先生のところではどれぐらいのメーカーさんのデバイスを入れていますか

高松:たくさん入ってしまっていますよ(笑)今では大きく分けると、レセコンメーカーのプラネットさん、口腔内の写真の管理ですね。あとアポイントや検査結果、そのほか紙出しのデータなどをプラネットさんでできる限りまとめている感じです。それに加えてレントゲンのデータ。これもプラネットさんでまとまるんですが、使い勝手の面などを考えるとレントゲンメーカーさんのものをできれば使いたいと考えて、ヨシダさんの「actionGATE」(プレゼンテーション・ポータルシステム)を使ってまとめています。

actionGATEだと、マイクロの画像とか、あとはメディットの口腔内スキャンの画像管理に使っています。ただCAD/CAMのデータなどactionGATEにまとまってこないものが結構あるので、その辺がDX化に困るっていうところになるかもしれないですね。

– 高松先生はいろいろなものを導入され、データも管理されてると思いますが、それは現在の歯科業界において当たり前のことなのでしょうか、データとして管理してる人たちはそこまでで多くないのではないかという印象もあるのですが、いかがですか?

高松:そうですね。歯科医院でとっている診療のスタイルによるところもあるかもしれません。院内でデジタル化してる部分がどのくらいあるかによって変わってくると思うんですよね。例えば、レントゲンもフィルムのものを使ってる人はさすがに少なくなって来ていると思うのですが、もしいたとしたら、それはデータにできないのでアナログ管理にならざるをえないと思いますし、アポイントメントも、デジタルのソフトウェアを使うのであれば、データになると思うのですが、アポ帳はノートでやっているという歯科医院さんもおそらくまだたくさんあるはずなんですよね。そうであればそこはデジタル化していかないないわけですから、あまりデータで管理するという感覚ではないんじゃないかと思うんですよ。

– やはり何か1つ入ってないだけで、データ化するという発想から離れてしまうものなのですね。

高松:そうですね。とは言っても、データ化したらなんでも楽になるかというとそれだけでもないこともあります。今はアポイントメントのソフトウェアなど便利なデジタルツールがたくさん出てきていますよね。そうなってくると、あっちもデジタル化してこっちもデジタル化してとなっていきますから、それらの管理がバラバラになって意外と大変という歯科医院さんはすごく多いのではないかなと思うんです。実は私もそうなんですね。

アナログからデジタル化の過渡期を過ごしてきた人間にとってはですから、それらがうまく統合してくれたら楽なんだけどな、というのはもうずっと思っています。

– デジタル化が進めば進むほどデータ管理が複雑に、煩雑になってしまうジレンマですね。グローバルメーカーや、国内メーカーにおいてもデータを連携させることが難しくなっていますよね。

高松:難しいところですよね。歯科医院さんも最初からデータ周りを一本化するつもりでいろんなDXを入れてないと思うんですよ。まず取り入れてみようかなとなって、次々に導入しているうちに気づいたらバラバラになってデータの統合できない、みたいなことがほとんどだと思います。

2.データはまとめたい、ただ簡単ではない現実のなかで

– そうなってしまうとある程度、データの統合や一本化は諦めるしかないのでしょうか?

高松:そうなると統合しやすいものに切り替えていくという形になりますよね。ですから次に何か新しいものを導入するのであれば、単品でいくら優れていても統合できないものは要検討だなっていう感覚になりますね。すごく優れていて統合できるものならすぐ導入するでしょうし、それができるかどうかが一つの選択基準になってくると思います。

– やはり1つに統合できる方が絶対にいいと考えてらっしゃるわけですね。

高松:そこは天秤にかける感じかと思います。例えばですがCAD/CAMの話であれば、それを使わなければできないことがあったりもするので、その場合はデータ統合が難しくてもそれを使うしかないわけです。できることのメリットを取って統合することは諦めるわけですね。

しかし、両方同じぐらいで背比べしてるんだったら当然、統合ができそうな方を選んだらいいだろうなというイメージで考えてます。譲れるものと譲れないものの天秤ですね。

– ご自身で振り返って、いろいろなものを導入する初期段階で、ある程度データを統合することを前提に考えて選べたらよかったなと思うことはありますか?

高松:もちろんありますよ。振り返って、当時はDXって言葉がまだまだ業界に浸透していなかったですから、まずいろんなものをデジタル化するっていうことが重要となってた時でしたけど、今の時代はDX化に加えてデジタル化していくことを考えていかないといけない時代になりましたからね。時代背景を考えると今から開業をする人は楽だと思いますよ。データ統合を考えてDXを進められるチャンスがたくさんあるわけですから。

3.壁になっているメーカー同士の思惑

– なるほど、ではもし高松先生が今の世の中で開業できるとしたら、こうやってただろうな、、こうやってたらすごく楽だろうな、など想像したりすることはありますか?

高松:そうですね。本当はぐるっと自分の扱っているデータを一つに統合できるものがあれば、間違いなくそれを使って開業時からやるんでしょうけども、またそこも難しいところで、現状一つに集約できるものはどのメーカーさんでも出されてないんですよね。歯科医院さんのDXって、今は主題がトリートメントサイドというか、治療に関わるデバイスのデジタル化じゃないですか。でも本来はバックオフィス、それこそ人事労務とか、会計関係も全部含めて、DX化した方が非常にいいのかなとは思うんです。ただそれができる存在は、現状いないことを考えると難しいところです。

– 確かにトリートメントサイドとバックオフィスサイドのどちらもカバーしているところはなかなかないですよね。

高松:そんな中でもヨシダさんで「actionGATE」があって、他メーカーさんのものでも統合できるというような雰囲気はあるんですが、統合される側のメーカーさんがそれを好むかどうかっていう問題もあったりしますからね。技術的な問題っていうよりは、メーカーさん同士の事情という部分が大きいかもしれません。

現実的にどうやったらできるのかと考えてみると、やはり歯科医院は保険診療が主体ですから事業を広げられるようなレセコンメーカーさんか、レセコンメーカーを持っているメーカーさんが他とくっつけていくみたいなことが必要なのかもしれません。

– となると、これからトリートメントサイドからバックオフィスまでの全てをパッケージで提案できるようなメーカーさんがもし出てきたとしたら、みなさん飛びつくようなことになるんでしょうか。

高松:これもですねそんなに簡単じゃない課題はあるんですよね(笑)難しいところなんですが、すでに自分たちの使ってきたツールの中で蓄積されてきたデータがあるんですよ。これを簡単に移植できたりしない限り、例え素晴らしいものが出てきても、全てそれにサクッて代えられないんですよ。積み上げてきたものがありますから簡単には捨てられないんです。

ですから今、私の医院でもプラネットさんのものとヨシダさんの「actionGATE」と両方を使っているんです。これは両方に蓄積されたデータがあって、どちらかのソフトウェアをやめるとなると負荷がかなり大きいので、両方使わないといけないということなんです。二元管理でかえって面倒じゃないかと思われるかもしれないですけど、それでも1.5管理ぐらいで何とかなってるので、導入する意味はあると思っています。

4.DXが進んだ先に、まとまらないことで生まれるヒューマンエラー

– DXツールがバラバラのメーカーで混在している状況というのは、単なる手間の他に何か問題は発生してくるものなのでしょうか?

高松:ちょっと具体的な話になりますが、例えば今私の医院ですと技工所とのやりとりに関してもデジタル化をしています。ただそれもレセコンと連携はしていないので、頭書きをする必要があるんですよね。その時にちょっとでも誤字があったり、入力ミスをするというようなヒューマンエラーが出たりすると、検索したくても引っかかってこない時があったりするんです。

– なるほど、ツール同士が繋がってないことによってそこに人間が介在するポイントが少しずつ発生しますから、それがミスやいろんな手間を引き起こすのかなという感じはありますね。

高松:そうなんですよ。せっかくのデータなのにうまく使えていない、ツールにしてもフルでは使いきれてないという感じにはなります。いろんなデータも患者さんのところに集約されていれば当然いいわけなんですが、それぞれのメーカーのそれぞれのところに保存先があるというのがそもそもの問題ですね。といってもなかなか統合しようがないという感じかもしれません。

後編に続く

高松 雄一郎(タカマツ ユウイチロウ)
高松歯科医院 院長 
北海道医療大学歯学部 卒業 
北海道大学高齢者歯科学教室入局 
北海道大学大学院歯学研究科入局 
日本臨床歯科CADCAM学会 北海道支部長
ISCD国際セレックトレーナー

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