2023.12.13

経営

歯科医院へのインボイス制度の影響は?対象業者や対応方法を紹介

「インボイス制度は歯科医院に影響があるの?」

「インボイス制度がはじまるけれど、まだ制度を理解していない」

などの疑問を持つ歯科医院、開業医は多いことでしょう。

インボイス制度とは、簡単に言うと消費税を正しく納めるための制度です。この記事では、インボイス制度施行による歯科医院への影響や、取るべき対応を解説します。制度を理解し、しっかりと準備を進めましょう。

目次

  1. インボイス制度は消費税を正確に納税するための制度
  2. 歯科医院へのインボイス制度の影響
    •  2-1 売上取引での影響
    •  2-1-1 免税事業者の場合
    •  2-1-2 原則課税事業者・簡易課税事業者の場合
    •  2-2 仕入取引での影響
  3. 歯科医院がインボイス制度で取るべき4つの対応
    •  3-1 自分が免税事業者か課税業者のどちらなのか確認する
    •  3-2 インボイス発行業者になるかを決める
    •  3-3 簡易課税か原則課税のどちらを採用するかを決める
    •  3-4 インボイスは7年間保存する
  4. まとめ:歯科医院で影響するインボイス制度に備えて準備しよう

1. インボイス制度は消費税を正確に納税するための制度

令和5年10月1日よりはじまるインボイス制度とは、これまでよりも正確に消費税を納税するための制度です。インボイス制度が始まると、仕入れ時に自分が支払った消費税を、商品販売時に顧客から預かった消費税から差し引けるようになります。これを仕入税額控除と言います。

ただし、仕入税額控除を受けられるのは、政府が認めるインボイス(適格請求書)を用いて取引をした場合のみです。インボイスを用いて取引をするためには、税務署⻑へ申請し、適格請求書発行事業者になる必要があります。1

2. 歯科医院へのインボイス制度の影響

インボイス制度は、歯科医院へどのような影響を与えるのでしょうか。自分が仕入れるときと、商品やサービスを売るときによって、それぞれ影響が異なります。

以下では、売上取引と仕入取引に分けて、どのような影響があるかを解説します。

2-1 売上取引での影響

歯科医院の場合、個人の患者を相手にするときは、インボイス制度の影響をあまり考えなくて良いでしょう。

しかし、企業を相手に取引をする場合は、インボイス制度の利用を検討する必要があります。具体的には、以下のようなケースです。

  • 企業からの委託で健康診断を実施する場合
  • 企業の産業医としての報酬をもらう場合
  • 企業側の費用負担によって従業員に必要な検査を行う場合

上記のような場合、自分が免税事業者か課税事業者かによって、受ける影響が変わります。以下では、免税事業者と課税事業者の違いを引き続き解説します。

2-1-1 免税事業者の場合

免税事業者とは、課税売上が1,000万円以下で、消費税の納税が免除されている業者のことです。2自分が免税事業者の場合、インボイス制度を利用するかどうかを判断する必要があります。判断の分かれ目は、取引先との関係を維持できるかどうかです。

取引先は、適格請求書発行事業者との取引でなければ仕入税額控除を受けられないため、そのままでは損をしてしまいます。よって、自分が免税事業者であることを理由に、取引を打ち切られる可能性があるのです。

そのため、一番無難なのは適格請求書発行事業者になることです。しかし、一度適格請求書発行事業者になると免税事業者には戻れず、課税売上が1,000万円以下でも消費税の納税義務が発生します。

取引相手との関係継続と、消費税の負担を天秤にかけて判断する必要があります。

2-1-2 原則課税事業者・簡易課税事業者の場合

原則課税事業者や簡易課税事業者なら、適格請求書発行事業者になり、インボイス制度を利用する方が良いと言えます。すでに消費税を納めている立場なら特にデメリットはなく、むしろ取引先からは歓迎されるでしょう。

ただし、インボイスを発行する機会がない場合は、必ずしも適格請求書発行事業者になる必要はありません。たとえば、取引先が免税事業者のみの場合が当てはまります。

2-2 仕入取引での影響

免税事業者及び簡易課税事業者なら、仕入税額控除をしないのでインボイス制度を利用する必要はありません。一方、原則課税事業者で仕入税額控除を受けたいなら、インボイス制度を利用する必要があります。

ただし、取引先が適格請求書発行事業者でない場合はインボイスをもらえないので、仕⼊税額控除を受けられません。

上記ケースとして考えられるのは、⻭科技⼯所への委託です。歯科技工所の経営は個人で行っている場合があり、免税事業者である可能性があります。

3. 歯科医院がインボイス制度で取るべき4つの対応

インボイス制度の施行に伴い、歯科医院が取るべき対応は以下の4つです。

  • 免税事業者か消費税課税業者のどちらになるかを決める
  • インボイス発行業者になるかを決める
  • 簡易課税か原則課税のどちらを採用するかを決める
  • インボイスは7年間保存する

上記の対応は、事前に考えておく必要があります。先々悩まないためにも、しっかりと押さえておきましょう。

3-1 自分が免税事業者か課税業者のどちらなのか確認する

インボイス制度を利用するかどうかを考えるにあたり、確認すべきことは自分が免税事業者か課税事業者のどちらに当てはまるかです。

自分がどちらに当てはまるかによって、インボイス制度による影響やその他の対応の判断が変わります。

課税事業者になるかどうかの基準は、個人ならその年の前々年、法人なら前々期の課税売上が1,000万円以上かどうかです。期間内の課税売上が1,000万円を超えた場合は、課税事業者に該当します。

3-2 インボイス発行業者になるかを決める

前提として、インボイス制度を利用するかどうかは任意です。先述の内容を踏まえると、インボイス制度を利用するかどうかの判断基準は以下の通りです。

  • 取引先(買い手)と関係を継続できるか
  • 仕入税額控除を受けたいか

歯科医院など一般の顧客を相手にしている場合、インボイスを要求される機会は通常ではないでしょう。そのため、状況によってはあえてインボイス発行事業者になる必要はありません。

一方、企業から健康診断などの依頼を受けている場合や、物品の仕入れ額が多額な場合は検討する価値があります。取引先に、自分が適格請求書発行事業者になることを求められているかを確認しても良いでしょう。

3-3 簡易課税か原則課税のどちらを採用するかを決める

課税売上が5,000万円未満の場合、簡易課税制度を利用できます。原則課税では、売上にかかる消費税から、仕入れにかかった消費税を引いた額が納税額になります。

簡易課税制度は、課税売上にかかる消費税に対し、一定割合を掛けて仕入税額を算出する方式です。

一般的な歯科診療はサービス業に分類され、課税仕入れは50%として計算します。実際の課税仕入れ割合は50%以下になる場合が多いため、簡易課税制度での算出が有利な傾向にあります。3

3-4 インボイスは7年間保存する

インボイス制度では、税務調査の際に調査対象となるインボイスを7年間保存する義務が生じます。4さらに、2024年1月からは、電子取引に関するデータ保存義務化となる電子帳簿保存法(電帳法)も始まります。

電子取引を行った際、消費税法上では紙媒体での保存も可能ですが、所得税や法人税は電子保存を求められます。取引先からの請求書が紙媒体ではなく、インターネット経由で来た場合が該当するでしょう。

所得税や法人税の調査では、経費の発生が事実であったかが問題になります。対して、消費税では、インボイスの存在が焦点となるのです。経費が発生していたとしても、インボイスがない取引は認められません。

税務署が調査した結果、消費税の追徴を命じられる可能性があるので、注意が必要です。ただし、簡易課税制度を選択した事業者には、インボイスの保存義務はありません。

4. まとめ:歯科医院で影響するインボイス制度に備えて準備しよう

令和5年10月1日よりはじまるインボイス制度について、歯科医院への影響を解説しました。インボイス発行事業者になるかは、自身が課税業者か、それとも免税事業者であるかを確認した上で判断しましょう。

課税事業者であっても、関係する取引先がインボイスを要求してこなければインボイス発行事業者となる必要はありません。免税事業者であっても取引先がインボイスを要求してくればインボイス発行事業者になる必要があります。

取引先との関係性や、今後の事業計画を元にインボイス発行事業者になるかを判断してください。

  1. 国税庁「インボイス制度の概要」 ↩︎
  2. 国税庁「納税義務の免除」 ↩︎
  3. 国税庁「簡易課税制度」 ↩︎
  4. 国税庁「適格請求書等の写しの保存」 ↩︎
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